まさか、同じクラスになれるなんて。
3年生には、修学旅行という行事がある。上手くすれば、ジーンと同じ班になって修学旅行にいけるのだ。
もしかしたら、二人で話す機会があるかもしれない。
あったところで、何を話したらいいのかはわからないが…。
そんな風にどきどきしていると、ジーンの隣に一人の男の子がやってきた。
黒髪黒目で、眼鏡をかけた痩せがちな男の子。学年一の秀才で、首席卒業は間違いなしと言われているリンドゥー・レインスである。彼もまた同じクラスになったのか、とエルメンリーアは今更認識した。
「ジーン」
「おお、ついに同じクラスになったな、よろしくな?」
「宿題は手伝わないからね。…あれ、エルメンリーア。また同じクラスになったんだ。よろしく」
「こちらこそ。リンドゥーとまた同じクラスなんて、嬉しいですわ」
リンドゥーに対してはこんなに簡単に話せるのに。
「え?これがエルメンリーア?あ、そうなのか」
ジーンがすっとんきょうな声をあげた。
「…知らなかったの?」
「うん。今知った。へー…」
「よ、よろしく。ル・エルメンリーア・アイルーイです」
エルメンリーアは慌てて言った。先ほどジーンに「よろしく」と言われてから、返事をしていなかったことに気がついたのだ。
それにしても。
1、2年の頃自分はジーンの眼中になかったのだ。少し淋しい。
─ でも、いいわ。今覚えてもらえたから…。
「彼女は魔術が得意だよ。ジーン、教えてもらった方がいいんじゃない?」
「うっそ、マジ!?何であんなん出来るんだよ、おかしいよ」
「そんな、得意なんてほどじゃ…」
ジーンとエルメンリーアは同時に言い、顔を見合わせた。
「…僕に言わせりゃ」
リンドゥーは一拍後、眼鏡をくいっと上げながら言った。
「ジーンが魔術を覚えなさすぎるだけだよ」
「だってめんどくせえもん」
「留年しそうになって、慌てて詰め込むほうがめんどくさいと思うけど?で、覚えた端から忘れていくだろ?ジーンは」
「興味のないこと覚えてどうすんだよ」
「そんなセリフは、卒業してから言いなよ、全く…」
「あの」
エルメンリーアは精一杯の勇気をふりしぼって言った。
「私でよかったら………」
「ホント!?じゃ、テストの時はよろしくな?」
「やめときな、エルメンリーア。ジーンは、カンニングさせてくれっていうのが関の山だよ」
「…」
その時、ルルレンが帰ってきた。
「やっぱり駄目だったー。今更クラス変えられないってさ。フー」
「お前なあ。俺と同じクラスなのがそんなにイヤか?」
「だって、同じ顔3年も見るなんて飽きるじゃない?あ、リンドゥーだ。リンドゥーも同じクラスになったんだー。よろしくっ」
「ルルレンか…よろしく」
ルルレンは、リンドゥーのことを知っているようだった。
ジーンと仲がいいから、リンドゥーのことも知っていたのだろうか。
「エルメンリーア、リンドゥーは知ってるの?」
「ええ。去年同じクラスだったから…」
「そっか。じゃ、よかったね」
ルルレンは快活に笑う。
「ねえリンドゥー、修学旅行一緒に行こうねー」
「何で?」
「楽が出来そうだから」
「…僕は何も出来ませんよ。連れていくならジーンにすれば?」
「ええー?やだよ、こんなの」
「こんなのとは何だ!」
「体力はあるから、荷物持ちくらいにはなると思うよ。剣も使えるんだし」
「やだよー、うるさいもん。言うこときかないし」
やり取りを、エルメンリーアはぼーっと聞いていた。
口を挟む余裕がない。
ルルレンは、2人と随分仲がよいみたいだし。
ジーンの生き生きとした表情を、こんなに真近でみるのが初めてだったのでつい見とれてしまったせいもあった。
「ほらほら、いつまでも喋ってないで!早く席に着きなさい」
…見とれているうちに、業を煮やした先生が教壇から注意した。
クラスメイトは仕方なく席に着いてゆく。リンドゥーも、自分の席の方に行った。
エルメンリーアとルルレンも、自分の席にきちんと座る。
「後でね。またゆっくり話そっ」
ルルレンがそっと耳打ちしてくれた。エルメンリーアはハイ、と答え、嬉しい気持ちでいっぱいになる。
隣の席をちらっと盗み見る。
ジーン・トリア。
外を見れば、中庭に春の花が一杯に咲いている。
─ いいことがありそう。
エルメンリーアのハイ最後の一年は、こうしてこれ以上はないというほど幸先のよい始まりを向かえたのだった。
─ 何か起こるかもしれない
End ─
あとがき
えーと。き、キリリクです。ゆうまくん20000hit申告ありがとうございました!
ずいぶん前ですね…。15000が書けなくてつまってた…のと、まあ理由は色々あるにせよ。
お待たせして申し訳なかったです。
いただいたリクエストが、「エルメンリーアが幸せな話」だったので頑張ってみました。
どうかなあ。
修学旅行のメンツがちょろっと出てきていますね。ほんとはまだいるのですが、無理矢理全員出すのもなー、と思ってこれだけにしておきました。
いつか修学旅行の話ものっけられたらなあと思います。…思いますが、長いんですよねえ。フウ。
エルメンリーアがジーンを好きになったきっかけというのも、このお話を書きながら考えました。
単純ですが、まあ人を好きになるって実にささいなきっかけが大きいと思うので、これはこれでいいかなと。理由をきめられたので、私はすっきりしました。
では、次のキリリクも頑張って書きますのでよろしくです。
2002.11.15 神崎 瑠珠 拝