〜前回のあらすじ〜
 14歳になったライラは、エルメンリーアに対する嫉妬をはっきりと自覚していた。そんな中、舞踏会で会った男、グレンに自分を愛すると誓わせることに成功する。
 
 

 3.

 それから、ライラは幸せだった。グレンは近衛隊だから、城でよく見かけることが出来るし、夜は人目につかないようにこっそりと会いに来てくれることもある。
 今夜も、そうだった。
 「ライラ」
 グレンは、身軽に木を伝い、2階のライラの部屋までやって来る。
 「グレン」
 ライラはさっと明かりをおとす。影が出来ないようにするのだ。全く、そんなこともいつの間にか憶えた。
 「今日も剣の稽古してたのね」
 「─ ?どうして分かった?」
 「だって、腕に包帯が巻いてあるわ。ケガをしたのでしょ?」
 「まあそうだけどね」
 「ほうら、あたった」
 ライラは少し笑ってグレンの手を引き、寝台に並んで座る。
 「つい、剣にも力が入るんだ。ライラをもらいたいから」
 「それとこれと、どういう関係があるの?」
 「だからつまり、はやく出世すればそれだけ、もらえる可能性が高くなるだろ?」
 「そこまで勿体ぶられる程でないわ、私」
 本当だった。父王は、おそらく自分を惜しんですらくれないだろう。
 「でも、姫をもらうというのは大変なことなんだよ。早めに出世しておくにこしたことはないんだ」
 「そうなの」
  ライラにはよく分からない話だったがうなずき、グレンの肩に頭をもたせかけた。
 「うん。まあ、それだけじゃないけどね。剣に力が入る理由は」
 「他に何があるの?」
 「ライラには笑われそうだけど、負けたくない相手がいるんだよ。剣士としてさ」
 「強い人なの?」
 「うん、強いね。しかも僕と同い年だからさ。もしもそいつがライラを欲しいと陛下に言ったときに、僕の方が位が低かったらまずいだろ?」
 「私が欲しいなんて…」
 「言うかもしれない。ゼーレは…あ、奴は上昇志向が強いから。ま、とにかくライラ、僕は頑張るからさ。見ていてくれ」
 「ええ。あなたがいれば、いいわ」
 「ライラ」
 グレンはうれしそうにライラを抱き寄せ、額にキスをした。

 

 ライラは愛されていることを、生まれて初めて実感していた。信じられないほど穏やかな、嬉しい気分だった。
 こんな気分を、エルメンリーアはずっと味わっていたのだ。そう思うと少し心に影がさすが、まあそれも一時のことだった。
 母の言葉も、今では理解できた。全く、愛されなければ意味がない。その通りだった。
 ライラ付きの侍女たちの間では、何故ライラが最近少し明るく、物腰もやわらかくなったかについて少し話題になってはいたが、グレンのことをはっきり突き止めた侍女もいなかったので、たいしたことにはならなかった。
 そうしているうちに2ヶ月が過ぎ、また舞踏会の日がやってきていた。