一年の約束 〜マリアからセルジオへ その11〜

 

 

 愛しいセルジオ様へ


 すっかり夏になってまいりました。
 セルジオ様をお見送りしたときは、夏って何て遠いのかしらと思いましたが、月日も経ってしまえばあっという間ですわね。
 …でもやっぱり、お帰りになるまでのあと2ヶ月はとてもとても長いのでしょうけれど。
 そちらの砦は暑いのですか?熱射病など、気をつけて下さいませね。
 この1年、セルジオ様からのお手紙に病気のことが書いてなかったのが幸いです。
 私ですか?私は…ええと、ごめんなさい。実は冬に、軽い風邪をひきました。御心配をおかけしたらいけないと思って手紙にはかかなかったのですけれど。
 今は勿論、完治しておりますわ。それ以来目立った病気はありません。御心配なさらず。
 …もしかしたら、セルジオ様も私に黙ってお風邪など召していらしたのかしら?
 怒りませんから、今度のお手紙でお知らせ下さいませ。

 

 お父様に言いましたわ。
 「セルジオ様は、毎日のように遠乗りを楽しんでらっしゃるようですわ」と。
 なんて言ったとお思いになります?
 「そうか、セルジオはそんないい目にあっているのか。修行が足りないな。帰ってくるなと言い渡そう」
 「そんな、ひどいですわお父様。そんなことをなさったら私が泣きますからお止め下さい」
 「それは困るな」
 お父様はしばらく考え込みました。それから、さも名案という顔をして、
 「よし分かった。じゃあセルジオが帰って来たら、私が入れ違いにハイトのところに行くとしよう。これも王としての修行のうちだ。仕方あるまい。な?」
 「お父様!」
 …全くもう、お父様ったら本当に…。まあ、無理もありませんけれど。政務は相変わらず、お忙しいようです。
 私もお手伝いできたらと思うのですけれど…まだまだ、勉強不足のようですわ。情けないです。

 

 私も、セルジオ様からのお手紙は繰り返し読みます。読みますけれど、この間のは特に…「お妃候補が他に何人居ても…」というくだりを、何度も読み返してしまいました。
 本当に嬉しかったですわ。
 あまりに嬉しかったので顔に出てしまったらしく、読んだ後に会った侍女やお父様は怪訝な顔をしていました。
 仕方ありませんけど、少し反省致しました。
 二十歳にもなった大人の女性としては、そういうときでも澄ましていられませんと。
 …と思うのですけれど。
 でも、セルジオ様に「好き」と言われてときめかない私なんて、私ではないような気がしますの。
 難しいです…。

 

大人びた(はずの)王太子妃 マリア