〜前回のあらすじ〜
  エルメンリーアはジーンに城まで送ってもらえた。そのことだけならばとてもとても嬉しかった。修学旅行に対する彼の気持ちまで聞けたのだ。
 ただ、その中で「彼は卒業後にも、修学旅行のような旅をする機会がある」ということがわかる。自分は…と考えると、折角の幸せにもやや水がさすエルメンリーアだった。

 

 6.  

 エルメンリーアは自室に戻るやいなや、父王の部屋に呼ばれた。  
 お供を振りきって帰ったのだから、まあ、叱られる覚悟は出来ていたのだが。  
 父王の部屋に行くと、母妃メグネットもいた。  
 両方から叱られてしまう。エルメンリーアはしゅんとした。  
 「エルメンリーア。今日は、供の者をふりきって街へ駆けていったということだが、どういうことなのだ?」
 「ごめんなさい、お父様。ちょっと用事がありましたの」  
 「供の者が一緒では、まずいのか?」  
 「…」
 「エルメンリーア。きちんと答えなさい。でないと、供の者が罰を受けることになってしまうのよ。分かるでしょう?」
 メグネットの言葉に、エルメンリーアははっとした。そうだ…確かに、私のせいで罰を受けるかもしれない人がいるのだ。
 「ごめんなさい、どうしても一人で行きたいところがあったんですの。悪いことをしたのは分かっています。だからお願い、お父様、罰を与えるなんてひどいこと、なさらないで」
 エルメンリーアに必死に訴えられると、父王は弱い。
 「もう、しませんから。ね、お父様」
 半泣きで言う。これが演技でなく出来るところが、エルメンリーアなのだ。
 「ん…。まあ…泣かなくともよい。気をつけるようにしなさい。心配だっただけなのだよ。分かるだろう?」
 「陛下。まだお話はありますでしょう?」
 「あ、ああ。そうであった。
 エルメンリーア。今日お前を城まで送ってきたのはお前と同じくらいの年の少年だったというが、本当なのか?」
 「はい」
 エルメンリーアは素直にうなずいた。
 「同級生なのか?」
 「はい」
 「その…特別に親しくしているのか?」
 「どういうことですの?」
 きょとんとする。シトラ6世は一回メグネットと顔を見合わせたあと、また言った。
 「つまりだ。その少年と恋愛関係にあるのかと訊いている」
 「れっ…」
 エルメンリーアの顔が真っ赤になった。
 ジーンと恋愛関係だなんて。そりゃ…気になってはいるし、今日一緒に帰れて嬉しかったけれど、でも。
 「どうなのだ、エルメンリーア」
 エルメンリーアはぶんぶんと首を振った。なんだか気恥ずかしくて仕方なかった。
 「本当なの、エルメンリーア」
 母も心配そうに尋ねてくる。こっちに対しては首を縦に振った。
 「ならばよいのだが…。お前ももう、14だからな…」
 父王の、妙にほっとした表情が気にかかった。
 「エルメンリーア。余はライラを断罪した言葉を、忘れてはいない。お前も気をつけなくてはいけない。─ 分かるな?」
 ライラの罪。エルメンリーアは事件当時まだ幼かったのだが、事が事だけに覚えていた。
 4年前、エルメンリーアのすぐ上の姉、ライラを巡って2人の青年近衛兵が争いを起こし、片方は決闘によって死亡、もう片方は決闘による怪我と、ライラに自分の喉を突かせたことがもとで、死んだのだった。
 ライラにとどめを刺させた方は、当時の将軍の息子だったので、将軍が責任をとって退役してしまったりと、しばらく宮廷は揺れたのだった。
 ライラ自身は、今も城の北の塔に幽閉されている。
 彼女をそこに追いやったのは、父王の言葉だった。
 「王女が軽はずみに男性と関係を持つということ自体、一つの罪に値する」
 エルメンリーアは、小さくうなずいた。