〜前回のあらすじ〜
  第四の王女は、ル・エルメンリーア・アイルーイ。
 国立高等賢者学院 ─ 通常「ハイ」─ の最上級生である。
 卒業するためには「修学旅行」に行かなければならないのだが…。

 

 2.

 ハイにおける「修学旅行」の定義は、
 「少人数のグループで、3ヶ月かけて何らかの冒険を成し遂げること」である。
 行き先、目的は基本的に自由。持っていけるお金、宝石類には制限があるが、持って帰る方にはない。
 おまけに、規則の中には「出てきたモンスター、盗賊、山賊、追い剥ぎ、泥棒等の類は自分たちで倒すこと」というのまである。つまり、先生達が引率するようなヤワなものではなく、自分たちで立てた目的を自分たちで達成するために、命を賭ける修学旅行なのだ。
 そこまで決めたのはこのアイルーイの開祖、シトラ1世。
 エルメンリーアにとっては、遠い遠いお祖父様にあたる。

 

 エルメンリーアは、はしたなくも王宮の中を走っていた。
 こんな時どこに向かっているかは、大体決まっている。
 彼女は目的の部屋にたどり着くとまず1つ深呼吸をし、それからドアを2つ、ノックした。
 そして静かにドアを開けて、中に入る。
 「エリザベラお姉様、ただいま帰りました」
 そこは彼女の同腹の姉、エリザベラの部屋だったのだ。
 長椅子にゆったりと座って静かに書物に目をおとしていたエリザベラは、相も変わらぬ完璧と言っていいほどの美しさで、エルメンリーアを見て微笑んだ。
 「おかえりなさい。今日は早いのね」
 まだ、昼過ぎである。
 「今日から、テスト前で学校は早く終わるんですの。─ お姉様、何かしてらっしゃいました?お邪魔でした?」
 「別に…。何かあるの?」
 「はい!」
 エルメンリーアは嬉しそうに頬を紅潮させている。そのまま姉の隣に向かった。
 エリザベラが完璧な美を誇っているとしたら、エルメンリーアはまれに見る可愛らしさを備えている、というところだろうか。
 栗色のふわふわした髪。鳶色の大きな瞳。生き生きとした表情。すんなりと伸びた手足。
 15歳という中途半端な年齢だったが、彼女ははっきりと可愛らしかった。
 おまけに人なつっこいので、城内だけでなく城下での人気も高い。
 美貌のエリザベラと並んだところは、どんな画家でも筆を動かさずにはいられないような感じだった。
 「お姉様、今日ね、修学旅行の班が決まったんですの。成績とか、得意分野とか希望をもとに先生が決めて下さったんですけれど、私の班ね、すごいんですのよ!」
 「どうすごいの?」
 「まずね、ジーン・トリアがいますの!私、ジーンと同じ班になりましたのよ。 それからねえ、ユーク・リッドもいますの!すごいと思わなくて、お姉様?学年で一、二を争う剣士が2人揃って私と同じ班ですの!」
 単純に、先生の策略ね。
 エリザベラはそう思ったが黙っていた。お父様が溺愛しているエルメンリーアだから、せめて成績優秀な面子を揃えようという…今更何を言う気にもなれない、見え透いた計略だった。
 「ユーク・リッドは初めて聞く名前ね。ジーン・トリアの方はよく聞くけれど」
 「あら、私、お姉様にユークのことはお話していませんでしたの?」
 「ええ」
 「まあ…私ったら。あのね、ユークもすごい剣士ですのよ。いつも、ジーンとトップを争ってますの。何でも、ハイに入る前はあちこちお父様と旅をしてらしたとかで、実戦慣れしているそうですわ」
 「だのに、ジーンとはいい勝負なの?」
 「…」
 エルメンリーアは一瞬困った。
 「あ、あのね。ジーンは…本当は、まだ…ユークに勝ったこと…ないそうですの。で、でも、いつも惜しいんですもの、いつかきっと…!」
 エリザベラは笑ってうなずいた。本当は1つのことに気がついていたが、言わなかった。
 「あとは、誰なの?」
 「あとはね、女の子はルルレン・アイーダだけで…男の子は、あ、何故かマクスト・アレンがいましたわ」
 「大臣の息子ね?」
 「そうですわ。びっくりしました。ちょっとうるさい方で困りますけど、でも先生が決めて下さったんだから仕方ないですわよね。えっと、あとは…」
 エルメンリーアは、嬉しそうに喋り続けた。エリザベラはただ少し笑って、妹姫の話を聞いていた。