フィリスのケース(恋愛初期)

 

 フィリスのケース

 別に何とも思ってない、というのが彼女のケースだった。
 「ねー、シリウっちゃん。好きな人とかいないの?」
 同じパーティのシリウスに、呑気にこう聞けるくらいである。
 シリウスは大きめな目を見開いた。
 「いないよ、そんなの」
 「そんなのって…」
 「考えたことないもん」
 「もったいないなあ」
 「フィリスはどうなのさ?」
 「わたし?わたしも別に…お兄さま達がステキだったから、あれ以下の男じゃだめだし」
 「ウィルは?」
 「え??」
 青天の霹靂というやつだった。なんでここでウィルの名前が出てくるのだ。
 「ウィル…って?なんで?」
 「見てればわかるよ。ウィルはフィリスのこと好きだよ」
 …??
 しばらくきょとんとしたのち、フィリスは笑った。
 「そうなの?そうかなあ?ハハハハハ」
 「…なんでそんなに笑うの?」
 「何だか可笑しくて。だって、わたし何とも思ってなかったんだもん」
 「…そうなん?」
 「そうなん。だって、ぱっと見、冴えないじゃん。ウィルって」
 「…」
 シリウスは慎重にそれに対するコメントを避けた。
 確かにウィルは一見してもてるタイプではない。 髪も目も黒いし顔立ちも地味なので、目立つタイプではない。一緒にいる銀髪蒼眼で顔の彫りも深い、エッちゃんことエスターの方が、よっぽど人の目をひくタイプだ。
 でも、だからといって不細工なわけではないし、むしろ顔立ちは整っている方である。…色気は足りないとしてもだ。
 「ね?だからさ、全然眼に入らなかったんだけど」
 「今は違うの?」
 「別に好きって言うわけじゃないよ。そういうわけじゃないけど…こないだの戦闘で、わたしが真っ先に援護魔法かけてあげたら、すごく嬉しそうに戦ってたんだよね。そのとき、あれ?と思ったんだよね」
 「ウィル、ひょっとしたらわたしのこと好きかも?って?」
 「うん」
 「一番にかけてあげたのは偶然?」
 「うん。だって、一番前に出て戦ってたから」
 「…ごもっとも」
 「でも正直、わたしはウィルがどう思ってるのかってよくわからないんだよね」
 「なんで?結構あからさまじゃない?」
 「だって別に好きって言われたわけじゃないよ?わたしとしては、なんでシリウっちゃんにそれがわかるのかが不思議なんだけど」
 「…うーん、それは雰囲気というかなんというか…。見てればなんとなく…。でも、何を証拠にと言われるとな…あ、ほら。街に出かけるときなんか、荷物持ちについてきてくれてるじゃん」
 「当たり前でしょそんなの。ついてきてくれないエッちゃんの方がおかしいのよ」
 「…」
 「ウィルにしたって、わざわざわたしが誘わないと来てくれないんだよ?気が利かないよね」
 「えーと…」
 歯に衣をきせないフィリスの言い方に、シリウスはたじたじとなった。
 「え、だから結局さ、フィリスはウィルのことどう思ってるの?ってば」
 「急に言われてもなー。
 今はまだ好きでも嫌いでもないってところだね。ウィルのことまだそんなによく知ってるってわけでもないし」
 「確かめるわけにもいかないしね」
 「うん、わたしからは何も言わないよ。ウィルがわたしのこと好きならそれなりに何か言ってくるだろうし、そうじゃなきゃ何も言わないでしょ。はっきりしないままわたしの方から聞くのはごめんだわ」
 その時。
 隣の部屋からウィルの叫び声が聞こえた。
 何を言っているのかは分からなかったが、タイミングがタイミングなだけにどきっとする。
 「ど、どうしたんだろ?」
 「フィリス、顔赤いよ」
 「そ、そんなことないよっ」
 「見てくれば?」
 シリウスがいたずらっぽく笑う。
 「シリウっちゃんは?」
 「別に大したことなさそうだし、行かなくてもいいと思うよ」
 「…」
 フィリスはしばらく迷った後、頬を染めたまま、ドアに向かった。

 

 

ドアを開ける

ドアを開ける前にウィルのケースを見てみる
(注:読まないでドアを開けても話はつながりますよ♪)